生理の悩みに「漢方薬」。婦人科で処方する漢方薬について解説




生理痛や生理不順、PMS(月経前症候群)などの悩みは相談される方も多く、一人ひとり症状も多岐にわたります。人や月によっても違う月経の悩みには、ピルだけでなく「漢方薬」も有効です。


今回は漢方薬の基本や生理の悩み、婦人科で処方する漢方薬についてまとめています。



◎漢方薬とは


ここでは漢方薬の基本について解説します。


  • 漢方医学の薬
  • 漢方薬は医薬品

それぞれ詳しく見ていきましょう。


[漢方医学の薬]

漢方薬とは、漢方医学で使用する薬です。


漢方医学は、中国を起源として日本で独自に発展した医学です。中医学や韓医学とともに東洋医学と呼ばれることもあります。西洋医学が手術や薬で直接病気の治療をするのに対し、漢方医学は身体と心を一体として捉え、身体のバランスを整えることを目指して治療します。


漢方薬の原料は生薬(しょうやく)です。生薬は植物や動物などの一部分を乾燥させたり蒸したりして加工したもので、生薬を複数種類組み合わせて漢方薬が作られています。


[漢方薬は医薬品]

漢方薬は治療効果が認められている医薬品です。薬局やドラッグストアで販売されているものもありますが、医療機関で医師に処方される場合は健康保険の適用となります。


漢方医学は身体のバランスを整えることを得意としているため、漢方薬を長期的に服用することで体質の改善が期待できます。西洋医学の薬に比べると「効果が緩やか」、「副作用がない」と言われることもありますが、速効性がある漢方薬もあり、西洋医学の薬と同様に副作用に注意が必要です。


漢方薬は使用する生薬の種類や量、用いる条件が漢方医学で細かく決められています。複数の生薬を組み合わせて作られるため、一つの薬で複数の症状に対応できることもあります。また、同じ症状でも体質や体型、その時の心身の状況によって処方される漢方薬が異なることもありますので、処方薬については医師に相談してください。



生理の悩みと漢方薬


ここでは生理の悩みに漢方薬を使用することについて解説します。


  • 漢方薬のメリット
  • ピルとの違い

それぞれ詳しく見ていきましょう。


[漢方薬のメリット]

生理の悩みには、様々な症状に対応できる漢方薬が有効です。


生理痛やPMS(月経前症候群)には腹痛や頭痛、腰痛、冷え、イライラ、気分の落ち込み、むくみ、だるさなど、検査値には現れないさまざまな身体の不調があります。漢方薬には複数の成分が含まれているため、多岐にわたる症状に対応が可能です。


また、「痛み」に対して「鎮痛剤を使用する」というような対症療法ではなく、不調を起こしている根本へ働きかけることができることも、漢方薬のメリットです。


西洋医学では病名を重視した治療を行いますが、漢方医学では体質や体型、気(き)・血(けつ)・水(すい)のバランスで身体の状態を捉え、身体と心を総合的に判断します。「病気にはなっていないが健康でもない状態」を身体のバランスが崩れている「未病(みびょう)」と捉え、アプローチすることもできます。その時の体調に合わせた処方ができるため、長期的に使用することで体質を改善し、自然治癒力を高め、不調になりにくい身体に整えることができます。


[ピルとの違い]

月経困難症やPMSの治療には、低用量ピルを使用することが多いです。低用量ピルは女性ホルモンが含まれている薬で、服用することでホルモンバランスを一定に保ち、生理の悩みを改善することができます。低用量ピルは直接的にホルモン量を調整するため、効果がはっきりしていますが、持病によっては服用ができない場合があります。

漢方薬は身体のバランスを整えて、症状にアプローチしていきます。低用量ピルと比べると効果は緩やかですが、長期的に服用することで体質を整え、不調の起きにくい身体づくりが可能です。


低用量ピルと漢方薬は併用することもできます。漢方薬の効果が現れるまでの間、一時的に低用量ピルを併用し、症状の緩和を行うという使い方をすることもあります。また、低用量ピルで治療をしながら、低用量ピルでは対応しきれない症状に漢方薬を用いたり、低用量ピルによる副作用の緩和に漢方薬を用いたりすることも可能です。



◎婦人科でよく処方する漢方薬


漢方薬には多くの種類がありますが、その中でも生理痛や生理不順などの生理の悩みや、冷えやむくみなどの女性に多い悩みに処方される漢方の一例を紹介します。


  • 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
  • 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
  • 加味逍遙散(かみしょうようさん)
  • 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
  • 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
  • 女神散(にょしんさん)
  • 五苓散(ごれいさん)

それぞれ見ていきましょう。


[当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)]

生理不順や月経困難症などによく処方されます。体力があまりなく疲れやすい、貧血傾向のある女性に向いています。血行を良くし、体内の水分を整えることから、冷えやむくみなどにも有効です。


[桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)]

上半身がのぼせて、下半身が冷える方の生理痛に処方されます。比較的体力のある女性に向いており、上半身の「気」を降ろし、「血」の巡りを良くする効果があります。肩こりやシミの改善にも効果が期待できます。


[加味逍遙散(かみしょうようさん)]

冷えに効果があり、月経困難症や生理痛に用いられます。女性ホルモンの乱れによるイライラや不眠などにも処方され、「血」を補い、「気」の巡りを整えることが可能です。


[桃核承気湯(とうかくじょうきとう)]

のぼせて便秘しがちな方の生理痛や生理不順に向いています。下腹部で滞る「血」を巡らせ、頭部に逆流している「気」の流れも良くします。生理時のイライラや産後の不安感などにも効果が期待できます。


[芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)]

体力がある方にもない方にも用いられ、生理時の腹痛や腰痛に効果的です。「血」の不足を補うことで、筋肉の急なけいれんを鎮めます。

長期的に連日服用すると、副作用のリスクが高くなるので注意が必要です。


[女神散(にょしんさん)]

顔はのぼせて手足が冷える方や、めまいがある方の生理不順、産前産後の気分の落ち込みや不安感に使用されます。ホットフラッシュやほてりにも有効です。


[五苓散(ごれいさん)]

体力に関わらず使用できます。滞った「水」のバランスを整えるため、月経周期に伴うむくみや頭痛に効果的です。下痢や二日酔いに効く漢方薬でもあります。



【漢方薬で心身を整える】


女性の心身は女性ホルモンに大きな影響を受けています。生理による腹痛や頭痛、イライラ、気分の落ち込みなどは、体質改善によって症状を緩和、軽減することができます。


仕方ないとあきらめずに、身体と心を整えて元気に過ごせるよう、「漢方薬」という選択肢を考えてみてください。


松下産婦人科医院
医師
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