出産を間近に控えた方は医療機関や出産を扱ったサイトなどで「カンガルーケア」という言葉を目にすることがあると思います。
今回は、出産時のケアであるカンガルーケアについて解説します。
カンガルーケアのメリットとデメリットやお父さんのカンガルーケアについても紹介しています。
◎カンガルーケアとは
ここではカンガルーケアの基本について解説します。
- 始まりは早産児へのケア
- 生まれてからすぐに
それぞれ詳しく見ていきましょう。
[始まりは早産児へのケア]
カンガルーケアとは、生まれたての赤ちゃんをすぐに素肌の胸に抱くケアです。
もともとはNICU(新生児の集中治療室)で早く生まれた赤ちゃんへのケアとして行われていました。お母さんやお父さんが赤ちゃんを胸に抱く様子がカンガルーを思わせることから、カンガルーケアと呼ばれるようになったと言われています。
素肌の状態の赤ちゃんを胸に抱くことで、肌と肌とを直接触れ合わせることができ、赤ちゃんの体温が保たれたり、呼吸が安定したりする効果などがあります。入院して治療している赤ちゃんとの絆が深まるケアでもあり、現在でもNICUで積極的に取り入れられています。
妊娠37週以降の正期産で生まれた赤ちゃんに行われる出生直後の肌と肌との触れ合いは、「早期母子接触」や「早期皮膚接触(skin-to-skinまたはSTS)」と呼ばれており、厳密にはカンガルーケアとは区別されています。
しかし近年、「カンガルーケア」という言葉がよく知られるようになったため、「カンガルーケア」と「早期母子接触」がほとんど同じように扱われる場面もあります。生まれる時期に関わらず、出生直後の肌と肌との触れ合いを「カンガルーケア」と統一して呼ばれることもあり、今回の記事でも出生直後の肌と肌との触れ合いを「カンガルーケア」として紹介します。
※医療機関によって「カンガルーケア」や「早期母子接触」、
「STS」など言葉の使い方が異なる場合があります。
[生まれてからすぐに]
カンガルーケアは赤ちゃんが生まれた後、できるだけすぐに行うことが理想的と言われています。
赤ちゃんは生まれるとすぐに新しい環境に適応するために激しく泣いて、身体中に酸素を送り始めます。この時の赤ちゃんは、環境の変化を大きく受けて興奮状態となり、しっかりと覚醒している状態です。
覚醒状態は2時間程度続き、その後赤ちゃんは次第にまどろみ、眠ってしまうのでカンガルーケアは生まれた後すぐから2時間程度の間に行うことが効果的と言われています。
赤ちゃんやお母さんの状態によっては、カンガルーケアをすぐには行えない場合もあります。出産時は赤ちゃんとお母さんの安全が最優先されるため、事前に希望を伝えていてもその通りにならないこともあることを理解しておきましょう。
◎カンガルーケアのメリットとデメリット
ここではカンガルーケアのメリットとデメリットについて紹介します。
- メリット
- デメリット
それぞれ詳しく見ていきましょう。
[メリット]
赤ちゃんへのメリットとお母さんへのメリットを表にまとめています。カンガルーケアには赤ちゃんにもお母さんにもたくさんのメリットがあります。
赤ちゃんへのメリット |
|
体温が保たれる |
肌と肌が触れ合うことで体温が保たれ、低体温を防ぐことができる |
呼吸や循環が安定する |
リラックスすることで呼吸や心拍数が安定し、子宮の外の環境に早く慣れることができる |
泣く回数が減る |
泣く時間が短くなり、体力の消耗が抑えられる 眠りが深くなる |
おっぱいを探し始める |
初めての授乳が成功しやすくなる |
免疫力が高まる |
お母さんの肌の常在菌を得ることができ、免疫力を高め、感染症のリスクを減らすことができる |
お母さんへのメリット |
|
赤ちゃんとの絆を感じられる |
直接肌が触れ合うことで赤ちゃんの体温を感じられ、赤ちゃんとの絆を感じることができる |
赤ちゃんへの愛情や愛着を感じられる |
赤ちゃんへの愛情や赤ちゃんを守ろうとする気持ちが生まれ、愛着を感じられる |
リラックスできる |
赤ちゃんをすぐそばで見守ることができ、安心できる |
母乳の分泌が促される |
オキシトシンというホルモンの分泌が促されることで、母乳の分泌が促進される |
[デメリット]
メリットの多いカンガルーケアですが、状況や環境によってはデメリットもあります。
最も心配されるのは、カンガルーケア中に赤ちゃんの状態に異常が生じることです。生まれたばかりの赤ちゃんは呼吸や体温が不安定なため、元気に生まれてきていても状態が悪化することがあります。赤ちゃんの体勢や室温が整っていること、すぐに医療スタッフが対応できるような環境であることなどが大切です。
また、お母さんがカンガルーケア中に不安やストレスを感じる場合もあります。出産の疲れや初めての赤ちゃんに戸惑い、カンガルーケアをすることをストレスに感じたり、赤ちゃんの状態に不安を抱いたりすることがあります。
カンガルーケアは途中でやめることも可能ですので、不安を感じた場合は医師やスタッフに相談してください。
カンガルーケアは必須のケアではありませんので、不安に感じる場合は無理に行う必要はありません。不安なことや心配な気持ちがある場合は、事前に医師やスタッフに相談してバースプランを考えておきましょう。
◎父親のカンガルーケアとは
カンガルーケアは赤ちゃんとお母さんだけのケアではなく、お父さんも行うことができます。生まれたての赤ちゃんをお父さんが素肌に抱いてカンガルーケアをすることで、赤ちゃんにもお父さんにもたくさんのメリットがあります。
お父さんにとってのメリットは以下の通りです。
- 赤ちゃんとの絆を感じられる
- 赤ちゃんへの愛情や愛着を感じられる
- オキシトシンが分泌され幸せな気持ちになる
- 父親になった自覚を感じる
- 父親としての自信が深まる
- 育児への自信につながり、意欲的に関わるきっかけとなる
お父さんのカンガルーケアを行う場合は、立ち会い分娩をすることが多いです。事前に父親教室などの受講が必要になる場合が多いので、前もって確認しておきましょう。
帝王切開術の場合でもカンガルーケアは可能です。お母さんの状態によっては、先にお父さんがカンガルーケアを行い、お母さんの状態が落ち着いてからお母さんのカンガルーケアを行うこともあります。
【親子の絆、夫婦の絆】
カンガルーケアは赤ちゃんだけでなく、お母さんやお父さんにとってもメリットの多いケアです。赤ちゃんとの親子の絆だけでなく、お母さん、お父さんがそれぞれカンガルーケアを行うことで、夫婦の絆も深めることができます。
カンガルーケアをする時間は、待ち遠しかった赤ちゃんとの出会いをより実感できる幸せな時間です。安心して過ごせるように、事前にバースプランなどで医師やスタッフと相談しておくことをお勧めします。
また、出産の状況や赤ちゃんやお母さんの状態によっては、生まれてすぐのカンガルーケアができない場合があることを知っておくことも大切です。生まれてすぐにできなくても状態が落ち着いてから行うこともできますので、医師やスタッフにご相談ください。