無痛分娩はアメリカやヨーロッパで多く行われており、日本でも近年増加傾向にあります。認知度も高まり、実際に選択肢として考えている方も多くおられることでしょう。
今回は、無痛分娩に関してもっともよく聞かれる「無痛分娩は本当に痛くないの?」という疑問にお答えします。
分娩時の痛みや麻酔を使用するタイミング、どんな方に向いているかをまとめています。
目次
◎分娩ってどんな痛み?
分娩時の痛みは「産痛」と言い、子宮の強い収縮による痛みと産道が開くことによる痛みがあります。痛みを感じる場所や痛みの強さは分娩の進行とともに変化します。
陣痛が始まって子宮口が開くまでは、子宮の収縮や子宮の出口が開く痛みがあり、下腹部に痛みを感じます。分娩の進行に従って痛みの範囲は徐々に広がり、下腹部から腰全体、外陰部も痛むようになります。
子宮口が10㎝開いてからは、赤ちゃんが外に出ようとするので、痛みは骨盤全体から外陰部、肛門の辺りまで強くなります。
◎無痛分娩で痛みはなくなる?
ここでは無痛分娩で痛みはなくなるかについて解説しています。
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硬膜外麻酔を使うことが多い
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麻酔をするタイミング
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感じる痛みはスマホを操作できる程度
それぞれ詳しく見ていきましょう。
[硬膜外麻酔を使うことが多い]
無痛分娩では、麻酔を使用して分娩時の痛みのコントロールを行います。
麻酔は硬膜外麻酔が多く使用されますが、脊椎くも膜下麻酔を使用する場合や、硬膜外麻酔と脊椎くも膜下麻酔を併用することもあります。
どちらも局所麻酔で下半身にのみ麻酔をかけるため、意識は保ったまま分娩を行うことができます。陣痛の痛みはとりますが、赤ちゃんに麻酔薬が移行しないので安全で、帝王切開術でも使用される麻酔です。
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硬膜外麻酔
背中から硬膜外腔(硬膜の周りの空間)にカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、カテーテルから麻酔薬を入れる方法です。
痛み止めの注射をしてからカテーテルを挿入するため、処置の時に感じる痛みは注射の痛み程度です。産痛の程度によっては、麻酔薬を後から追加することもできます。
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脊椎くも膜下麻酔
腰椎麻酔、脊椎麻酔とも呼ばれる方法です。細い針を使用して背中の脊髄液がある場所に麻酔薬を直接入れます。
硬膜外麻酔と同様に、実施前には痛み止めの注射を行います。硬膜外麻酔よりも麻酔の効果が早く現れるため、早急に麻酔が必要な場合に使用します。
脊椎くも膜下麻酔では麻酔薬は1回のみの注入になるため、長時間の麻酔効果は得られません。長時間の麻酔効果が必要な場合は硬膜外麻酔との併用を行うことがあります。
[麻酔をするタイミング]
麻酔を始めるタイミングは陣痛が開始してからです。施設によって異なりますが、無痛分娩は自然な陣痛に合わせて開始する場合と、計画分娩で人工的に陣痛を起こしてから始める場合とがあります。
どちらの場合も規則的な陣痛が始まり子宮口が3~5㎝程度に開いた頃に麻酔を始めることが多いですが、産婦さんの状態や主治医や麻酔担当医によって開始のタイミングは異なります。
初産婦さんでは子宮口が3㎝になるまでに数時間を要することもあり、その間は陣痛があります。麻酔を開始すると、硬膜外麻酔では数十分で効果が現れ始め、徐々に陣痛の痛みが弱まっていくように感じられます。
経産婦さんは一般的に分娩経過が早いとされており、麻酔の効果を十分に得るためにも、計画分娩をすることが多いです。
[感じる痛みはスマホを操作できる程度]
痛みの感じ方には個人差があるため一概には言えませんが、スマホ操作に支障がない状態で分娩ができるようコントロールします。
麻酔で痛みをコントロールすることで余計な体力の消耗を防ぐことができるため、産後は比較的早く体力の回復ができると言われています。出産後、麻酔の効果がなくなると自然分娩と同じように後陣痛や傷の痛みがあることもあります。
◎どんな人が無痛分娩に向いている?
ここでは無痛分娩が向いている方についてまとめています。
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無痛分娩が向いている方
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自然分娩にもメリットがある
それぞれ見ていきましょう。
[無痛分娩が向いている方]
無痛分娩が向いている、または無痛分娩でメリットがある方は以下の通りです。
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分娩が心配な方
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痛みに弱い、陣痛に対して強い不安や恐怖がある方
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妊娠高血圧症候群を合併している方
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心疾患や脳血管疾患のある方
痛みを和らげることができるため、痛みに対して不安を抱いている方は無痛分娩を行うことで落ち着いて分娩に臨むことができるでしょう。
また、麻酔によって血圧もコントロールしやすくなるので、高血圧になりやすい妊娠高血圧症候群の方にとってもメリットがあると言えます。
無痛分娩で痛みを調整することは、不必要な身体の力みを抑えることにも繋がります。心臓への負担軽減や脳出血のリスクが減ること等から医学的な理由で無痛分娩の適応となることもあります。
[自然分娩にもメリットがある]
産痛を緩和できる無痛分娩は魅力的ですが、麻酔を使用しない自然分娩にも良さがあります。
自然分娩では麻酔の副作用がないため、分娩中の過ごし方にほとんど制限がなく、分娩後も自然な経過に沿って過ごすことができます。
無痛分娩では麻酔を使用するため費用が高くなる傾向にあり、分娩費用を抑えられることも自然分娩のメリットの一つです。
無痛分娩にも自然分娩にもそれぞれメリットとデメリットがありますので、分娩方法を検討される際はぜひ過去の記事も参考にしてみてください。